2014年8月26日火曜日

氷のお餅、南極大陸 [岩野祥子]




「南極は、お餅のような形をした氷の大陸だ」

岩野祥子(いわの・さちこ)は言う。

「直径が約4,000kmもあるのに、大陸の平均標高は約2kmしかないので、相当のっぺりした平らなお餅。とはいえ平均標高2,209mというのは、他の大陸の平均標高900mと比べるとかなり高い」



第42次、第48次日本南極地域観測隊として、彼女は約2年4ヶ月間、南極の越冬観測に従事した経験をもつ。

「南極の平均氷厚は2,126m。最も厚いところは4,776mもある。4,776mといえば、富士山の上にさらに1kmの氷がのった高さだ。じつは南極氷床下の大陸基盤は、この氷の荷重によって押し下げられている」

それは「地殻均衡(アイソスタシー)」によるものだ、と地殻変動に関わる観測全般を担当していた彼女は言う。

「私たちの足元にある地球は、一見すると硬い。しかし同時に柔らかい性質も併せもっている。地球を『ゆで卵』のようなものと想像してもらうとわかりやすい。地表の固い部分(地殻)はゆで卵の殻。時にはバリっと割れて地震がおきたりする。その下に、ゆで卵の白身がある。白身は固体ではあるが、押せば凹む。地球でいうと、この部分がマントルに相当する。近くがマントルの上に浮かんでいて、地殻に働く荷重と浮力が釣り合う状態、それが地殻均衡(アイソスタシー)だ」



「もし南極大陸を覆う氷がすべて解けたとしたら…」

彼女は続ける。「氷の重みで押し下げられている大陸基盤も、氷床が解ければ重しが減って上昇する。重しから解き放たれた南極大陸は全体が上昇し、現在最高峰のヴィンソン・マシフ(標高4,892m)は5,000mを超える山になるかもしれない」



「地球は46億年の歴史をもつ。その間にはいろいろなことがあった。南極大陸が赤道直下にあった時代もある。その後、南極は現在の場所へ移動し、他の大陸から孤立した。それから南極大陸の周りを海流が回るようになり、中低緯度地域からの熱の流入が遮られた。そうして次第に寒冷化がすすみ、長い年月をかけて氷の大陸となった。南極氷床は、数万年にわたり雪が降り積もってできた。そしてこれからも、地球なりのタイムスケールでゆっくりゆっくり変動していくことだろう」

「広大なスケールの中に身を置くと、自分の存在そのものが奇跡だと思えてくる。人間の一生はとても短い。やりたいことはやった方がいい。南極で過ごすと、そんな気持ちになる」













(了)






出典:岳人 2014年 09月号




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