2015年6月18日木曜日

フランスの国立スキー登山学校 [ブリュノ・スーザック]



〜『岳人』2015年6月号より〜


 近代アルピニズム発祥の地、フランス・シャモニから、ENSA(ECOLE NATIONAL DE SKI ET D'ALPINISME)の現役教官、ブリュノ・スーザック氏が来日した。ENSAとは、フランスの国立スキー登山学校のことであり、山岳ガイドやスキーパトロールといった山岳スポーツのプロフェッショナルを育成する機関だ。



 ブリュノ・スーザック氏は、20年余りにわたって、ENSA(フランス国立スキー登山学校)の教官として数多くのガイドを育て、かつアルピニストとしてパタゴニアなどで多くの先鋭的な登攀に成功してきた。

 そもそもENSAとは一体どのような組織なのだろうか。

ブリュノ「フランスには国立のスポーツ学校が4つあります。乗馬、ダイビング、ヨット、そしてスキー登山学校(ENSA)です」

 国の機関がスポーツの振興のために学校を運営することは、日本人には馴染みがないだろう。フランスには世界各国の中で、スポーツ政策をリードしている国である。1963年に青少年・スポーツ庁ができ、2010年にはスポーツ省として独立し、国民のスポーツ振興を司っている。ENSA(スキー登山学校)もスポーツ省管轄の団体になる。しかしこの4つのスポーツはいわゆる代表的な競技スポーツでないところが面白い。

ブリュノ「ENSAは山岳スポーツを教える機関ではありません。山岳スポーツのプロフェッショナルを育成し審査する機関です。生徒たちは入学する時点で、すでに様々なスキルを身につけていなければなりません。入校するには、厳しい基準の山行記録審査を通過し、入学テストに合格しなければなりません。事前にテストを設けることにより、私たちは生徒に対し、プロフェッショナルとして要求される技術、すなわちガイディング技術から教えることができるのです」






 人生の大半を、一貫して山と向き合い仕事としてきたブリュノ氏。フランスで山岳ガイドになるということは、”趣味が高じて”などという生易しいものではない。あくまでもプロフェッショナルとして仕事をこなす態度がうかがえる。

ブリュノ「シャモニ谷でガイドとして暮らし、長いキャリアを築くのは容易なことではありません。4年前、私は兄を山で亡くしました。それ以来、山に対する考えが変わってきました。リスクというものに対する考えも変わりました。シャモニ谷では4ヶ月にひとりの割合で、ガイドが山で亡くなっていくのです。落石、滑落、雪崩など、原因は様々です」

 フレンチ・アルプスでは毎年30人ほどの登山者が命を落とすという。

ブリュノ「自分の子供にガイドになってもらいたいか、と聞かれたら、ノーと答えますね」







 3度の来日を果たしているブリュノ氏に、日本と日本の山の印象についてうかがった。

ブリュノ「フランスと日本の国土は正反対です。フランスは国土の70%が平野で30%が山岳地帯です。アルプス山脈は国土の30%しかないのです。日本はどうでしょう。70%が山岳地帯だと聞いています。これは、山岳スポーツとそれを楽しむ登山者の潜在的な需要がもっとある、ということです」

 訪日外国人がイメージする日本は、いかにも東南アジア的な水田地帯の風景だという。スキーのために白馬を訪れた外国人が発する代表的な言葉は「まさか日本にこんなに大きな山があるとは知らなかったよ」だ。

ブリュノ「私から見て、実にもったいないという思いがあります。一例をあげれば、スキーです。今回私は山岳スキーの技術と雪や雪崩の講習のために来ました。北海道ではミックスクライミングを、白馬では極上のスキーを楽しみました。しかし(日本人の)講習生のほとんどがクライマーだったためか、スキーの技術はクライミングの技術に比べて充実しているとは言えませんでした。それでも、日本の雪は世界で最高クラスといえるでしょう。フランスやカナダにも雪はあります。ただ、日本ほど質のよい雪が降るところは世界中をみても、多くはありません。そんな環境があるのに、それを十分に活かしきれていない、という感じがしました。私が接したのは日本のごく一部に過ぎませんが、日本の方々には、その素晴らしさと可能性に、もっと気づいてもらいたいと思いました」






抜粋引用:岳人 2015年 06 月号 [雑誌]
岳人プロファイル 山と生きる人の今
ENSA教官ブリュノ・スーザック(Bruno Sourzac)

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