2015年3月21日土曜日

「狩猟をして思ったこと」 [瑛太]








瑛太「目の前で鹿が死んでいくのを見たときは、正直言葉にならなかった。感覚としてはショッキングだった。頭の整理が全然つかなくて、それは今もあまりついていないです」

服部文祥「そんなに?」

瑛太「まず一頭目を服部さんが撃ったとき、一歳半って聞いて自分の娘の顔が浮かびました。それから今まで普通にスーパーでかっていた肉のこととか、焼肉屋で食べているハツって、目の前にある心臓だよなとか、これまで何気なく見てきた光景がものすごい速さで頭の中を巡るのに、答えがみつからない」

服部「確かに”今まで食ってた肉は何だったんだろう”って思うよね、誰が殺した肉なんだって気づかされる。俺はそれを自分でやったらどう感じるのか知りたくて狩猟を始めたんだけど、一頭目は同じように結構ブルーになったよ。結局どう肯定しようと思っても”殺し”だからさ、100%の肯定はできない」

瑛太「肉の背景を知ったという単純な話じゃない気もしますよね。だって、”牛肉おいしいな”って言ってる子供たちに、その前に生きている牛や屠殺現場を見せればいいってものでもない。自分自身も今はまだ道徳観とか秩序みたいなものに引っ張られているのかなとは思うけど、かといって本当の感覚が何なのかもわからない」



 



服部「うちの子供たちは結構ドライになったかな、狩猟者っぽいっていうか。家で飼ってるニワトリにも愛情はちゃんと注ぐけど、食べるときは食べる。そこは別に考えている感じがする」

瑛太「僕も小学校の頃から狩猟や解体を見ていたら、ドライになってたんですかね」

服部「どうだろうな、俺は30歳でサバイバル登山を始めて、35歳で狩猟を始めたけど、肉の背景を知らなかったっていうショックと同時に、間接的に殺しを買っていることをまったく疑問に思わなかった自分にもショックだった。”あぁ、俺こんなことも知らないで30歳になっちゃったのか”ってさ」

瑛太「魚とか鳥だったらここまでショックではなかったかも。でも鹿は身体の造りとか筋肉の付き方なんかが人間に近いから、感情に入り込んでくるものが大きい。そうやって理屈で自分に言い聞かせようとするんだけど、もう理屈ではないというか」

服部「狩猟免許に興味あるって言ってたじゃん?」

瑛太「あります。けど単純な憧れじゃ踏み込めない世界だと思いました」







 服部「それはなんでだろう。見た目? 匂い?」

瑛太「匂いに抵抗はなかったですね、なんというか、責任感…」

服部「追う撃つは面白い。でもそれで終わりじゃない」

瑛太「それは本当にそう思いました。自分で撃って、解体するところまで全部やらないと、結局重要な部分は見えてこない気がした。登山でもそうじゃないですか、キツイ場面で、もう帰りたい、なんでこんなところに来たんだろうって思うけど、いざ山頂に立って帰り道になると、また来たいなって考えてる。狩猟もそうなのかなって…。とくに解体はしっかりとした信念というか、ブレのない気持ちでやらなきゃなとは思いましたね。例えば曖昧な気持ちでナイフを持って、『え、次どうするんですか? この次はどうすればいいですか?』って、そんなじゃあ体を切り刻まれてる方はたまらないだろうなと」

服部「そういう気持ちがあるなら、それで充分でしょ。獲物に対して失礼ではないと思う。最初はみんな下手くそだから、自信を持ってやればいい。スポーツでも狩猟でも、自分ができることを100%出せば相手に対して敬意も伝わる。俺は鹿も弱い奴とかズルい奴に殺されたらなんとなく無念なんじゃないかなって思うから、獲物に恥じないように、いつも強くありたいと思ってる。まぁ、銃を使っている時点ですでにズルいし、鹿が無念だとかは考えてないかもしれないけど」

瑛太「それは俳優も一緒ですね。100人規模とか現場が大きくなっていくと、瑛太さん、瑛太さんって言ってくれる人もいるけど、どこかで自分は偽物なんじゃないかっていう心のしこりみたいなものは一時期ありました。でもそういう迷いを抱えてたら、結局自分の行為に自信が持てなくなるし、それは期待してくれる人に申し訳ないなって、最近はそういうのも全部自分で引っ張っていけると楽しいなと思うようになりましたね」



 



服部「そういえば、今日思ったけど、双眼鏡で鹿探したり、スリングで引き上げたり、様になってたな」

瑛太「『サバイバル登山入門』はかなり読みました。この本がきっかけで、サバイバル登山が流行ったら、どうします?」

服部「大丈夫、流行んないから」

瑛太「でも、このまま文明が行き過ぎたら、自然回帰みたいな流れもあるんじゃないですか?」

服部「流行っても、登山である限りは大丈夫だよ。人間が生物の力でできることは限られてるから。荷物背負って歩くということが、そのまま抑止力になる。しかも冬のサバイバル登山って想像以上に寒いから、みんなやらないよ。でも狩猟だけだとただの殺し屋みたいでそれも嫌だし、やっぱり登山がいいなぁ」







 瑛太「今回の体験はまだうまく言葉にならないけど、それとは別に、肉は食べるとおいしいですね」

服部「そう、そこが重要。うまいから救われるし、許される」

瑛太「でもショッキングな光景はまたすぐ戻ってきたりして…、”いただきます”って、そういうことなのかなとも思いました」

服部「うまいことまとめるじゃん。でも、そのうちその”いただきます”も疑うようになる。いただきますって言えば獲物殺しは許されるのか。昼間の心臓の儀式といっしょ」

瑛太「難しいですね」

服部「難しいけど、肉はうまい。いろいろ考えるのが人間の特権かな。考えればそれだけ登山も深くなるし、何も考えないで登るよりは、格段に面白いと思う」

瑛太「また一緒に山に行きましょう」

服部「つぎは夏だな、次回イワナ釣り編。休みとれるの?」













(了)






引用:岳人 2015年 04 月号 [雑誌]
瑛太 × 服部文祥
対談「サバイバル登山、狩猟をして思ったこと」




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