2015年12月20日日曜日

直滑降 [オーストリアスキー教程1957]



[オーストリア スキー教程 1957]


P. 12〜14


2. 直滑降


直滑降の姿勢は無駄な力を使わず、しかもいかなる動きにも即応しうるものでなければいけない。力の浪費を省くこと、および広い視野をもつという二つの要求をみたすのであるから、直立に近い高い姿勢となる。膝から下(脛)をよく前におし倒す。脛を前におし倒すと、解剖学的理由によって、足首の関節はしっかりひきしまり、もちろんスキーの操作も確実になる。また、正しい前傾姿勢をとるために必要な準備ができることにもなる。膝と腰はバネをたくわえ、また、あらゆる動きに即応するため軽くまげる。

横から見て、すくなくともスキーの上に垂直に立ち、また、いかなる変化にも応じて体を動かせるような印象をあたえる姿勢であるべきである。この「斜面に垂直」な姿勢にあっては、踵よりも親指のつけ根のほうにいくらか余計に体重がかけられねばならない。つまり、雪の状態が許すかぎり軽い「前がかり気味(Vorlagetendenz)」の姿勢をとるのがよい。両足は前後せずに殆ど揃え、両方のスキーに均等に荷重する。雪が深かったり、また変化のある場合には、多かれ少なかれ、その状態に応じて体をうしろにかける(Rucklage)とともに、足を前後して支持面を前後に伸ばすことが必要である。こうすれば、前にだしたほうの足で、いわば探りを入れることになるので、前からのショックにたいして確実さをますことができる。このような場合には、もちろん、うしろ足により多く荷重する。しかしながら雪の状態がよくて楽に回転しうるようなときには、両足を前後に開いていると、状況に即応して機敏に動作をおこす妨げとなる。

左右のスキーは、できるだけ揃えて細いシュプールで滑るようにすべきである。両足を揃えて細いシュプールで滑れば体の動きもまとまりがよくなり、また滑降の落ちつきと確実さをもたせるのにも都合がよい。氷化した雪のときには、必要に応じてシュプールを幾分ひろげたほうがよい。いくらか左右の間隔を広くしても膝をぴったりつけていれば、氷化したバーンにおいても軽くエッジを立てることができるから、十分な確実さを得るのにたいへん都合がよい。

腕は肘を軽くまげて楽にたもつ。腕はいつでも楽に無駄なく動かしてバランスをとり、またとっさの場合に応じて杖をつける用意がなければならない。共通した欠点は、両手を体側に力んで押しつけたり、両腕を不必要にひろげたりすることである。だらりと投げだしたように肩をさげ、ぶらりと腕をたらし、杖をだらしなくひきずるようでは、とうていとっさに体を動かすことはできない。しかしながら、滑降姿勢に最も多く見られる欠点は、胴体を前に突きだした姿勢で、こうした姿勢をとると両脚も硬直してしまって、尻もうしろに突き出ることが多い。

「基本姿勢」としては、シュプールの幅せまく、前がかり気味な、いつでも新たに動作をおこしうる、かなり直立に近い姿勢の習得をめざすべきである。この基本動作は、もちろん滑降の状況によって変わるものである。例えば傾斜のゆるい氷河などで長く真直ぐに滑降する場合には、無造作に体をゆるめた楽な「休息の姿勢」でよい。また雪が深かったり、変化のあるときには、後傾した、いわば何か待ち構えるような「防禦姿勢」をとらざるを得ぬことが間々ある(空気の抵抗を少なくするために深くかがんだ、したがって疲れることの多い姿勢で滑ることがあるが、これなどは、そのときそのときの事情と目的に応じてとられる例外的な姿勢の一つといえよう)。


斜面が急になる場合


これには、--とくに基礎訓練中は-- 身を沈め、姿勢を低くしながら前傾して通過するのがよい。こうすれば斜面に垂直な体勢をたもちうるので、雪面から浮きあがるようなことはない。上達した者は、良好な状態のときには、ただ直立した上体を前に傾けるだけで、この斜面に垂直な体勢をたもってゆける。


斜面がゆるくなる場合


これは、いま述べた斜面が急になるのとちょうど反対の場合で、体をのばして高い姿勢をとればよい。しかし、決して後傾に陥るようなことがあってはならない。すなわち、前、上に立ちあがるのであるが、急に平らになるようなところでは、どちらか一方の足を前に踏みだしてもよい。

逆斜面(のしあげ)の傾斜がしだいに緩くなる場合と同じである。ここでもいくらか低い姿勢から伸びあがってゆけばよい。こうすれば、押しつぶそうとする勢にたいして最もよくもちこたえられる。


大きな波形ののしあげ


さきに述べたものと同じ要領で、波ののしあげのところで体をのばす。だが、その頂点に達する前に適当な時期に低い姿勢になって前にかかり、斜面が急に落ちこんでもスキーをしっかり踏みおさえる用意をしなければならない。


小さい波


大きな波のときには、重心は、斜面に垂直な状態をはっきりと保ちつづけてゆくが、小さい波をいくつも越えてゆくときは、できるだけ同じ高さを保ちつづけてゆくようにする。

すなわち、波の谷では意識的に脚を(伸ばして)下におしつけ、また波の頭では下から突きあげられるままに脚をかいこんでゆく。このように、地面の凹凸を除去しながら乗り越えてゆくことは、後傾に陥らないために重要である。

上に述べたような地形を乗り切るときには、脚をちぢめて低い姿勢をしなければならないが、これは決して上体を前に突きだしておこなってはならないのであって、必ず脛を前に倒し、それに応じて膝をまげること(膝の前圧)によっておこなわねばならない。上体はできるだけ真直ぐにたもつ。


跳躍


跳躍は勢いよく跳ねのびることによって急にスキーが地面から離れ浮くことである。瘤のようにふくらんだところ、あるいは急に落ちこんでいるようなところは、このように空中に飛びだすのに適している。のみならず、このような地形のところでは別に飛びだそうとしないでも、ひとりでにスキーが雪面から浮くものである。スキーは空中にある間、平行に、左右ぴったりくっつけておかねばならないし、また、すぶに着地するのであるから、スキーのテールは決して下げすぎてはいけない。体は踏み切った瞬間にも、また飛行中も、ぐーっと前にだすようにしてゆかねばならない。脚は伸ばしたままでもよいが、しかし、空中を飛行する間、脚をちぢめてひきつけるほうが確実安定だとするものが多い。着陸は、一度ちぢめた脚を下に伸ばして、スキーをしっかりと踏みつけておこなう。着地のショックはスキーを前後してテレマーク姿勢に入って抜くのが有利である。着陸を滑らかにおこなうためには、必ず空中を飛んでいるあいだ前傾を十分にとり、したがって体は着地する前に適当に斜面に垂直な状態をたもっておかねばならない。述べる必要もあるまいが、前傾をしすぎたり、スキーの先を下げすぎると、頭から突っこんで危険な転倒をすることがある。長く飛ぶときには腕をまわしてバランスをとる。




2015年12月17日木曜日

歩行、滑走、方向変換 [オーストリアスキー教程1957]



[オーストリア スキー教程 1957]


P. 9〜12


1. 歩行、滑走、方向変換


スキーには自分の力を使って前進する場合と、重力によって滑り降ってゆく場合がある。

スキーをはいて平地を歩くときには、足を雪面からあげないで滑らせながら前におしだしてゆく。腕はふつうに歩くときと同じように脚の動きと反対に動く。杖を持っているために腕の動きは特にゆっくりとなるが、この腕の動きは進んでゆく方向からはずれないよう、正しくおこなわれなければならない。

杖を正しく握ることは、杖を使ううえに大切なことである。杖の頭についている握りの革の輪に下から手を通し、その革が掌のところにくるように握る。革の輪は手首にぴったりくるようにする。握ってみて杖の頭がちょっと上に出るくらいが丁度よい。杖で押して歩行を助けるが、前にだした杖の石突を後にむけて前にだしたスキーの締具の近くにつく。歩くときには、胴体はできるだけゆったりとたもち軽く前に傾ける。

滑走には靴の踵がよくあがる締具が必要である。歩行と滑走のちがうところは、滑走では後脚で蹴り、杖で強く押し、前に出したスキーに乗ったままかなり長く滑る。これが歩行とちがう点である。後脚で蹴り、杖で押す前に、足首、膝、腰をいくらか折りまげて体を沈める。

これらの各関節をさっと伸ばすことによって、体重およびキックの力は前にだした脚に移される。しかし、この前脚(膝)をあまり深く折りまげてはいけない。というよりも、前脚は軽くまげてひきしめたままたもち、運動エネルギーが無駄なく滑走運動に変るようにする。脚を前に押し出すときにはかなり伸ばして、踵に荷重する感じをもつようにするのがよい。

前に滑りつづけているうちに後脚をひきつけ、さらに前にだしてつぎの一歩を踏みだしてゆく。

初めの滑走運動が終らないうちに、つぎのキック、杖の突き放し等をおこなって、なめらかに前に滑ってゆく。スキーは雪から離れないが、強く走るときにはキックするとき、スキーのテールが雪面からすこしあがる。脚で蹴るときは必ず反対側の腕で強く杖を突いて助ける。杖を押すとき、最後に手首をよくきかせる。したがって手はとくに杖を突きはなすときには杖をかたく握りしめないで、手革だけにたよって最後には親指と人差指だけで持つくらいにする。こうして、はじめてうしろに押す腕は完全に伸ばされるのである。杖は突きはなしたら横に振りまわさずに体の近くを通って前にだす。前にだした腕はさらにうしろに押すことができる。突いた杖はずっと押しつづけるが、最後には力を強めて勢よく突きはなす。走って(滑走して)いるときには、体は前にのしかかって前傾する。キックする瞬間には胴体とキックする脚は前に傾いた一直線をなし、腰(の関節)ものびて運動エネルギーが正しく直線的に移動するようにする。

キックした直後、腰(の関節)が曲っていては、この運動エネルギーを完全に使いきることができない。

スキーがあまり滑りすぎると脚の力を使ってキックをきかすことができないので、腕の負担が大きくなり疲れやすい。したがって、場合によっては適当にワックスを使って摩擦を多くすることも必要である。上り気味になるにつれて滑走する歩幅はせばまり、逆に下りになると、踏みだした一歩の滑走距離はかなり長くなる。


両杖推進


これは走っている間にさしはさんで用いたり、平地やいくぶん下り気味のところでスピードを高めるのによく用いられる推進法である。両足をそろえて、両スキーに均等に荷重する。両杖を同時に(石突を後にむけて)突くとき、体をかなりのばしたまま、グーッと前へなげたおし、膝を徐々にまげながら突いた杖で強く押しきる。このとき腰を前におしだしてゆくことも忘れてはならない。杖で押している間を、できるだけ長くする。すなわち、両腕をよくうしろにのばして最後には掌(手)を開き、手革にたよってぐっと押し切るようにする。押し切ると同時に、体は再びのび、腕は新たに体の近くを通って(横に振りだすことなく)前にだされる。杖を押し切るとともに、一方の足を踏みだすこともある。

こうして、杖を押し切るとともに一歩踏みだせば、すぐに実用性の多い「二段滑走」に移ることもできる。すなわち、歩行の要領で一歩踏みだすとともに両腕を前にだして杖をつき強く押し切り、さらに、つぎの一歩を踏みだし滑ってゆく。この二歩ないし二段滑走およびその他の滑走法、すなわち三段滑走、四段滑走等について詳しく述べるのは、長距離走法の専門技術に属するから、ここでは省く。


直登行


傾斜の緩いときには、前に踏みだしたスキーを雪面からあげずに、垂直に重みをかけて踏みつけることによって、このスキーと雪との摩擦を大きくして後すべりを防げる。これだけでは十分でなくなったら、前にだしたスキーをもちあげて(雪面から離して)、必要に応じて強くたたきつけてゆけば摩擦を強め後すべりを防げる。強く叩きつけるとともに反対側の杖で支えて一歩一歩のぼってゆく。しかし、あまり腕を使って疲れるようなときには、コースを斜めに、傾斜をゆるくとって登るか、または別の登行法(開脚登行、階段登行)を用いたほうがよい。


開脚登行


左右のスキーの先を大きく開き(後端は閉じて)エッジを立てる。斜面が急になるにつれて、スキーの先開きを大きくし、エッジングを強めてゆく。内側のエッジを立てるには、膝を内側へおしつけてゆく。足首だけをまげてエッジを立てようとしてはいけない。開脚登行をするときには、杖をよく使って体を支えることが大切であるが、この登行法は短い登行にかぎって用いらるべきである。


階段登行


階段登行は横向きになって登る方法で、スキーは最大傾斜線にたいして横にする。階段登行は、とくに狭いところで、短い、急な斜面を登るのによい。山側(上)の足を足の裏全体で踏みしめられるように、山側(上)のスキーをいくらか前にだしておくことが必要である。

山側のエッジを立ててスキーのズリ落ちを防ぐ。とくに重要なのは、膝を山側におしつけることであるが、これと同時に、谷スキーに体重をよくかけ上体を谷側にねかして調子をとることが大切である。斜面が急になり、雪がかたくなるにつれてエッジングを強めてゆく。

階段登行には杖をよく使わなければならないが、とくに谷側の杖で体をよく支えることが大切である。


斜階段登行


真横に階段登行を続けると疲れが大きいが、斜め前に進みながら階段登行をしてゆくと疲れは少ない。スキーは前と同じように水平にするか、わずかに上にむける。谷側の杖で体をうまく支えると、この斜め前への登行は楽になる。


シールを使って登る方法


長く登り続けるときにはシールを使うのが一番よい。歩き方はふつうの歩行と同じであって、シュプールをうまくつけてゆけば、それだけ無駄な力を使わないですむ。登りのよいシュプールは、変化ある複雑な斜面をいつも同じような傾斜で登っているものである。

大人数の隊を組んで登るときには、先頭の者はしんがりの者が後すべりして困らないように、緩いシュプールをつけてゆくべきである。大勢で踏んでゆくと、最後の者が通るときにはかなりつるつるに踏みかためられてしまうから、先頭の者はこれを計算に入れて、シュプールをつけてゆかねばならない。また多人数のときには、各自がのびのびと歩けるように、前の者のスキーの後端とつぎの者のスキーの先端との間を約スキーの長さくらいあけて、それ以上間隔をつめないようにする。また先頭の者は、後の者が困ることのないよう、あまり幅の狭いシュプールをつけるべきでない。登りのよいシュプールをつけるためには、地形、斜面を正しく判断することが必要であるし、急になったり、ゆるくなったりしないように常に一様の角度(傾斜)をたもって歩く感覚が必要であるから、この判断力と感覚の養成を主な目標とすべきである。


停止中の踏み換え


踏み換えのときは、向きを変えようとする方向にたいして内側のスキーを新方向に踏みだし、外側のスキーを揃えてゆく。踏み換えはスキーの後端を中心にして先を開いておこなってもよいし、またスキーの先端を中心にして後端を開いておこなってもよい。早く方向を変えるため実際には同時に二つを併用することが多い。かなり急な斜面で向きを変えるときにはキックターンを使う。もちろんキックターンは平地でも使える。


キックターン


キックターンを最も確実に、したがって特に初心者に都合よくおこなうには必ず三つの点を支持点として用いることがある。すなわち、常に左右二本のスキーで立って一方の杖を突いているか、または左右両方の杖をつき片足で立っているかするわけである。

スキーを水平にたもち平行に揃えて立って、まわる方向にたいして内側になる杖を内側スキーの後端ちかくに突き、外側の杖は外側のスキーの先端ちかくに突く。こうして二本の杖を実際に支えとして使わなければいけない。つぎに内側のスキーを膝を伸ばして爪先を上にむけて蹴りあげ、このスキーが垂直になり後端が軽く雪にささるようにする。こうして軽く雪に突いておくと、つぎに楽にこのスキーをねかして向きを変えることができる。雪面にねかし、もう一方のスキーと平行にぴったり揃える。ぐちに外側の杖を内側スキーの先端からすこし横に離して突く。さらに外側スキーを、膝をごく軽くまげ爪先を上にあげ気味にして、最初に向きをかえたスキー(内側)に平行に揃える。

斜面でキックターンをおこなうときには、最初と終りにスキーを平行におくことが絶対に必要である。また山側のスキーを蹴りあげて向きをかえたほうが、わずかながらも高さをかせげるからよい。


滑降中の踏み換え


これは滑りながら一歩ずつ横に(先開きにして)踏みだしては揃えて方向を変えてゆく方法である。これは、ゆるい斜面であまりスピードの早くないとき、あるいは斜面から平地に入ってからおこなうのが特によい。ふつうの回転を阻むような雪(例えば、ブレイカブルクラスト、--表面が凍ってカラを張って乗ると落ち込むような雪)のときには、方向変換の最も確実な方法となることがしばしばある。平地を走っているとき、おそい滑降中または斜面から平地に入ったときなどには、外側のスキーで強く蹴って滑降速度を高めることができる。一般に、この踏み換えをおこなうときには、ただ消極的に滑るのではなく、むしろ積極的に勢よく外足で蹴ってゆかなければいけない。

行い方:外側になるスキーに全体重をのせる。蹴る準備をするため、膝をまげ腰を落して低い姿勢になる。とくに足首をよくまげ脛を前におしねかせることが大切である。同時に、内側のスキーを雪面からもちあげ、スキーの先端をあげ気味にしてその先を外にむける。しかし左右二本のスキーの端後がはなれず揃っているようにする。新たにむかう方向にたいして外側のスキーの内エッジで強く押し蹴って、新方向に踏みだした内側のスキーにぐっと膝を前に押しだしながら乗ってゆく。体重のぬけた外スキーを直ちにこのおろしたスキーに体重を移しのせてゆく。外スキーで押し蹴るときに、同時に外側の杖で強く突き押すか、または両方の杖で押してスピードを高めることができる。


スケーティング


滑降速度を高めるこの方法は、主に緩斜面で用いられる。滑降中の踏み換えと同じように、足首を強くまげて一方のスキーに体重をかけ、他方のスキーを雪面からすこしあげて、そのスキーの先を適当に外にむける。つぎに体重をかけたほうのスキーの内エッジで強く蹴り、先を開いたスキーに強く、しかし短い一歩を踏みだして乗りうつる。体重のかけられたスキーで滑っている間、足首をかなり強くまげ、膝と腰を軽くまげている。蹴ったほうのスキーを直ちに雪からもちあげ、滑っているスキーにたいして鋏形にたもつ。滑りがとまらないうちに膝を内側におしつけて滑っているスキーの内側エッジに乗り、これで蹴って新たに前とは逆のほうの斜め前に踏みだしてゆく。シュプールはスケートのように杉あや模様をえがいてゆく。蹴って踏みだすたびに、一方ないしは両方の杖で押してさらに勢をつけてゆく。


最大傾斜線への踏み換え


この斜面に横に(スキーを水平にして)立っていて最大傾斜線にむかってゆく方法は、ふつう「滑りだし」といわれ、初心者もおこなうが、また上達者も背に重い荷を背負った場合におこなうものである。荷のあるとき最も確実におこなうには、山側スキーのテールを開きだす方法がよい。つまり、水平におかれている谷スキーに全体重をかけ、谷側の杖をバッケンの下方約一歩くらいのところにつく。さらに、これとならべて同じ高さのところに肩幅くらいの間をあけて山側の杖をつく。

つぎに山側のスキーを、先端を中心にテールを開きだし、最大傾斜線までむけ、体を二本の杖で支えて谷側スキーを山側スキー(下をむいている)に平行に揃えておく。二本のスキーを完全に最大傾斜線にむけるには、かなり大きく踏みかえなければならない場合もある。杖で押して滑りだす。


跳躍して滑りだす方法(最大傾斜線にむかって)


スキーを水平にして斜面に立った姿勢から、スキーを平行に揃えたまま跳躍して最大傾斜にむかうのも滑り出しの一つの方法である。谷側の杖を谷スキーの締具のうしろに突き、山側の杖を山側スキーの締具の前につき、この杖に乗り切って跳びあがり、スキーを谷へむけてゆく。



→ 直滑降




2015年12月16日水曜日

技術解説 序言 [オーストリアスキー教程1957]



[オーストリア スキー教程 1957]


P. 8


技術解説

序言

初心者の滑り方も、根本的には熟達者と同じ運動特徴を示すべきであり、初心者はただ身のこなしが未熟であるにすぎないのであるから、以下の技術解説においてもスキー術の普遍的な基礎となる技術について述べることにする。

スキーの指導組織の発達した今日、いつ、どこへ行っても原則的には同じ技術が習えるようになっていなければならない。つまり、場所が異なり、別な教師についても、初めから習いなおすことなく、直ちに、さきへ進みうるようになっていなければならない。こうしておけば、個人的な特徴はスキー生活を続けるうちに自ら現われてくる。しかし、教える事柄そのものは、たいして相違あるものであってはならない。相違ありとすれば、同じ教材を生徒に応じて、どのように、どの程度におこなわせるか、つまり適用上の相違のみでなければならない。

滑降技術の今日の発達段階の重要な特徴は --技術全体を一貫しているものだが-- 踵を意識的に外へおしだして、これを回転の原動力とする姿勢にあり、これが最も広くおこなわれている。この技術の著しい特徴となっているのは、膝を柔軟にはたらかせること、脚と(腰から下)の動きにともなって必然的に生れてくる胴体の反対運動 -すなわち、上体を回転する方向とは逆にむけること、および外傾することにある。この軽快な脚さばき、ないしは、動きによる技術(Beinspieltechnik --米国では "below the belt action" -- 腰から下の動きといっている)は初心者でも正しい指導をうけさえすれば、高度の技術をめざしている上達者と全く同じように、満足すべき成果をあげうるのである。

この脚と腰のはたらきと最も緊密に関係しているのは前傾姿勢である。前傾といっても、これは決して脚の自由な動きを束縛する、あの極端な「締具によりかかったような姿勢」のことではない。正しい前傾は、踵をおしだして回転力を正しくはたらかしうるように、スキーのテールを調子よく軽くしうる姿勢であればよい。

両脚をぴったり揃えて使うのであるから、スキーも必然的に細く揃えて操作させる。ひとたびスキーをぴったり揃えて操作することを覚えてしまえば、広く開いて滑るより遥かに安定確実である。

さらに、この脚のうごきによる技術(Beinspieltechnik)の著しい特徴は、直立に近い姿勢、立ち上り沈み込みをきわめて楽になしうる姿勢にある。自由に、しかもいとも軽快に体を動かしうる姿勢で、ほんとうに名人のような気持で滑れるのであるから、スキーを習いはじめるその日から、この理想に近づいてゆけるのである。

このように滑るには、腕の保ち方、およびその動きも調和あるものでなければならない。型にとらわれたり、わざとらしさのために自然な動きを阻まれるようであってはならないのである。

つまり、腕は体全体の動きにともなって無理なく、無駄なく、とらわれなく全体のバランスをたもつように動くべきである。

以下に述べる技術解説は、生徒の滑り方がよいか悪いかを判断するのに大いに役だつであろうし、また同時に、自分の技術を矯正してゆくうえにもよき参考となろう。



→ 歩行、滑走、方向変換




2015年12月15日火曜日

オーストリアスキー教程(1957)[目次・序言・あとがき]



オーストリア スキー教程(1957)

昭和32年12月25日発行
定価500円

編者 クルッケンハウザー
訳者 福岡孝行
発行者 相島敏夫
発行所 法政大学出版局



目次


序言

技術解説

技術解説 序言

1. 歩行、滑走、方向変換
2. 直滑降
3. 斜滑降
4. 横すべり
5. 山まわりクリスチャニア
6. プルーク、プルークボーゲン、シュテムボーゲン
7. 谷まわりクリスチャニア


指導法

Ⅰ. 基礎訓練

指導法についての一般的注意

A. 走ること
1. 滑歩
2. 滑走
3. 登り
4. 方向変換

B. 最大傾斜線の滑降
1. 直滑降
2. (ジャムプ)

C. 山まわり回転(クリスチャニア)
1. 斜滑降
2. 横すべり
3. 山まわりクリスチャニア

D. ボーゲン
1. プルーク
2. プルークボーゲン
3. シュテムボーゲン

E. シュテムクリスチャニア
1. 山まわりシュテムクリスチャニア
2. 谷まわりシュテムクリスチャニアの基本型


Ⅱ. 仕上げ

仕上げについての一般的注意

A. つぎのことを磨き上げ洗練してゆく
1. 滑走と登行
2. 直滑降とジャムプ
3. 斜滑降
4. 横すべり
5. 山まわり(停止)クリスチャニア

B. 谷まわりクリスチャニア
1. シュテムクリスチャニア(開き出しが少ない)
2. 純粋クリスチャニア
3. 連続小まわりクリスチャニア、Kurzschwingen "Wedeln"

C. 山地滑降の基礎として大抵抗雪においてクリスチャニアとボーゲンをおこなう


学校におけるスキー教育
学校体育の一般教程からの抜粋(スキー)
学校スキー講習 基本要綱
学校スキー講習 告示補足

用語解説

訳者あとがき






P. 3

オーストリア スキー教程

本書はオーストリア職業スキー教師連盟の手によって出版されたものであるが、以下の諸団体の緊密な協力を得た。

文部省スポーツ局および学校体育局ウィーン、インスブルック
およびグラーツの各大学体育研究所

国立スキー教師養成所およびスキー教師国家試験委員

オーストリアスキー連盟

シュタイエマルク職業スキー教師連合

オーストリアスポーツ教師連合スキー部



P. 4

本書の普通写真、連続写真、図の構成は、アールベルク・サン、クリストフのシュテファン・クルツケンハウザー教授の手になるものである。

写真はライカM3、連続写真は手持スタンダードカメラで撮影された。二つのカメラには、ライツの長焦点レンズ(Hektor 13.5cm, Telyt 20cm)のみを用いた。フィルムはシュロイスナーの Adox Kb 17 のみを用いた。



P. 5〜6

序言

ものごとを教える場合、その指導法は教育目標によって明確に定められるものである。したがって、スキー技術がつねに教授法のうちにはっきりした形をとって現れているのもまた、当然のことといわねばなるまい。山岳滑降技術は、最近10年間にとくに活発な高度の発達をとげたが、オーストリアはこの発達に大きな役割を果してきたし、また、今日なお演じつつある。かかる発達と平行して、われわれの間では多くの団体が、スキー技術の新しい成果と指導法の調整をめざして努力し、ついにこれに成功した。しかしながら、これらは世間で往々誤りいわれるように、スキーの指導法が競技に同調したのではない。

つまり、これは、スキー技術について最近はっきり認められた幾多の事柄の本質を吟味し、検討して、これを初心者の指導にも適用し、初心者の指導から上達者の指導、さらにまた第一線級の訓練にいたるまで、首尾一貫した指導法の筋を通すことを肯定し要求したにすぎないのである。

この「オーストリア スキー教程」は、オーストリア各地のスキー学校、スキー教師養成所、職業スキー教師連盟、スキー連盟および体育、スポーツの各団体、とくにオーストリアのすべての学校におけるスキー教育において、数年間にわたる試行と討議の結果まとめあげられた指導法である。とくに学校において、かかる試みをなしえたのは、文部省が多大の便宜と援助をあたえ、青少年のスキーに大きな基盤をつくってくれたおかげである。



この「オーストリア スキー教程」はつぎの各団体の代表者
すなわち

オーストリア職業スキー教師連盟
文部省スポーツ局および学校体育局
ウィーン、インスブルック、グラーツ各大学体育研究所
国立スキー学校養成所およびスキー教師国家試験委員会
オーストリア スキー連盟
シュタイエルマルク職業スキー教師連合
オーストリア スポーツ教師連盟スキー部

等の代表者たちの長期にわたる詳細な専門的な協同研究の結果うまれたものである。



自由職業スキー教師の代表者(H. Bratschko, R. Matt, R. Rossmann, F. Schneider, T. Seelos, T. Schwabl)等の協力によってオーストリアのすべての「スキー学校」におけるスキー指導の最も重要な基礎を確立した。文部省スポーツ局のスキー部長(Fr. Ritschel 教授)の協力を得て体育およびスポーツ団体のスキー指導にあたる人々の専門的な意見を漏れなく徴しえた。オーストリア スキー連盟の指導部(F. Wolfgang 教授)および同連盟の指導法の担当者(H. Lager 教授)の協力によりオーストリアの競技スキーの専門団体(オーストリア スキー連盟)の指導に関する意見をいれることができた。文部省学校体育局長(省参事官 F. Zdarsky)ならびにウィーン、インスブルックおよびグラーツの各大学体育研究所の主任(講師 Dr. H. Groll, St. Kruckenhauser 教授)の協力により、学校ならびに国立スキー教師養成所におけるスキー教育の経験と要求を完全に考慮することができた。



このようにスキー指導の主要な地位にある者すべての協力を得て、スキー学校および一般学校における、スキー指導の統一ある教程はうまれたのである。

オーストリア職業スキー教師連盟は出版の担当者として本教程をまとめあげるために協力努力してくれたすべての人々に感謝を捧げる。ことに E. Koller 教授および H. Lager 教授には、技術解説をまとめあげた労にたいして感謝を捧げる。また指導方法をまとめ、技術解説の結論をまとめる仕事に加わり、さらにまた写真および図の構成、配列、ならびに印刷についてもお骨折りを願った St. Kruckenhauser 教授にはとくに感謝しなければならない。

文部省にたいして、オーストリア職業スキー教師連盟はその大規模な財政的援助に感謝するものである。この援助があったればこそ、本教程を刊行しうるのである。


ルディー・マット
オーストリア職業スキー教師連盟会長



P. 120〜122

あとがきに代えて

昨年の暮れにルディー・マット氏から、刷り上がったばかりの表紙もついていない「オーストリアスキー教程」が私の手もとに届いた。オーストリアは長い沈黙をやぶってついに統一技術をまとめ上げたのである。その前年1955年の春ヴァル・ディゼールでおこなわれた国際スキー指導者会議で同国は世界のスキーヤーの前にこの技術を公開し注目をひいた。欧米でセンセイショナルに迎えられたのに、わがスキー界は冷静であったというより無関心であったといったほうがよかった。

私はさきに「今日のスキー」を、そして戦後直ちに「自然なスキー」を紹介した。そのときすでに、私はスキー術はいよいよ完成期に入って、将来はただその細部において洗練され磨きがかけられるにすぎないと予言めいたことを書いた。いや予言というよりもそれが私のスキー技術遍歴のはて行きついた結論であり、実感であった。こんどマット氏から送られた本教程を見てあまりにも近いので、というより、全く一致しているといってもよいほどなので、かえってはっと思ったくらいだ。教程の練習法の主だったものは、かつてローティションスキーヤーであった私が、外傾技術に宗旨変えするときにさんざん苦しんで、思案のあげく考えだしたものと全く同じであるのでかえって驚き入った次第だった。このような、私にとってはこの教程の出現はむしろ遅きにすぎるという印象が強い。

私が外傾スキー術を守りつづけたのは、わが国が地理的に離れていることがかえって乱されずに冷静に考え観察する条件となったからといえるかもしれない。すでに昭和15年に「今日のスキー」を訳出した際に、「欧州スキー界の動向」として同書の付録に書いたことと重複するとも思うが、その間には17年もの年月が流れているので、いかにスキー技術の変わり方を見わたして正しい理解の助けにしたいと思う。

ツダールスキーが、いわゆる山岳技術を確立して以来、ビルゲリー・シュナイダーの系列はシュテムボーゲンとシュテムクリスチャニアの二つの回転を確立した。第一次大戦から1930年の約10年間はもっぱらこの二つの回転が山岳スキー術の核心をなすものとされた。当時のシュテムクリスチャニアは、1)シュテム(プルーク)、2)体重の移動、3)ローテイションの三つが特徴となっていた。さらに体重の移動は、立ち上り抜重によって助けられた。いわゆるホッケといって低い姿勢が格好の基本姿勢であったので、この立ち上り抜重は低−高−低の動きとなって現われ、立ち上ってから沈みこむときに、体重の移しかえと回転方向へのひねりこみ、すなわちローティションが必要であるとされた。しかし、実際にはそれほど強くは現われなかった。

1936年のオリムピックには滑降回転が正式種目として採用されたが、1930年からオリムピックまでの数年間にスキー術は急激に普及と発達をとげた。1936年頃は直滑降−斜滑降、プルーク−プルークボーゲン、シュテムボーゲン、シュテムクリスチャニアが一般には考えられた。しかし、プルークとシュテムボーゲンがその基礎であった。1936年を中心としてその前後数年間は大きな変動をはらんだ時期であった。

まずドクター・ホシェックとフリードル・ヴォルフガンク(現オーストリアスキー連盟指導部長)はプルークやシュテムを経ずに、斜滑降から「直接クリスチャニア」へ導入する方法を唱えた。まず山まわりを教え、直ちに谷まわりへ導くというのである。スキーをパラレルにしているので、彼らは強いローティションと立ち上り抜重によらざるを得なかった。まだゼーロースはまた立ち上り抜重とローティションと強い前傾のいわゆるゼーロース・シュヴングで幾多の勝利を占めた。

ローティションと前傾、立ち上り抜重の回転がほとんど決定的な地位を占めたかのごとく思われたときもとき、二冊の本が現われた。トニイ・ドゥチア、クルト・ラインルの「今日のスキー」とミュンヘン大学教授オイゲン・マティアスとサンモリッツのスキー学校長ジョヴァンニ・テスタの「自然なスキー」がこれである。前者は招かれてフランススキー学校で指導していたティロール出のひとびとであり、後者は運動生理学者としてスキーの骨折、捻挫等の傷害の研究の結果と実践との結実である。

両者はたがいに相識ることなく、全く別の道を歩んだにもかかわらず、その主張するところは期せずして「ひねりを排除し」、外傾技術を正しいとする点で一致していた。そしてまた、プルーク、シュテムと同時に、斜滑降から直接クリスチャニアに導入するという点で一致していた。一方フランスはドゥチア、ラインルから教わったものを排し、「ローティションと沈み込み」の技法をフランス独自のものとして打ち出した。が実際には、ゼーロースの影響を多分にもつものであった。

ひねるかひねらないか? パラレルかシュテムか? 当時われわれは全くこれらの問題になやんだ。私の場合、重い荷を背負った滑降やかたいバーンの滑降の実際的経験が長い間なじんだローティションを捨て、外傾をとるべきことを教えてくれた。

1937年12月はじめにアールベルクのサン・クリストフでオーストラのスキー教授法について会議がおこなわれた。これには当時健在だったハンネス・シュナイダーはじめ、トニイ・ドゥチア、クルト・ラインル、ホシェック、フリードル、アマンスハウザー等々いわゆるスキープロフェッサー連が集まってスキー教師の国家試験および教授法について問題をわれわれのものだけにしぼると、協議がおこなわれた。ひねるかひねらないかについては、ひねり、すなわちローティションがすてられ、たとえまわし込むにしても斜滑降姿勢、外傾が限度とされた。斜滑降から直接クリスチャニアへ導入する方法も論議にのぼったが、これはジャムプターンからテムポシュヴンクへ進む方法とともに全体に統一をもたせて教授するため、および限られた時間に効果をあげるために採用されずに終った。ともかくも、体のまわし込みは否定されたのである。

これと時を同じくしてスイスでも会議が開かれ、「自然なスキー」に統一された。またドイツでも統一的機運が動いたが、「ローティション是か非か」については明らかな線は打ち出されなかった。

ここまでは接触をたもってきたが、世界をあげての戦争はこの決定的な問題の発展を完全に停止してしまった。もう少しつづければはっきりした結論に到達しえたであろう問題はそのまま忘れられたかにみえた。

敗戦国オーストリアでは、例えばサン・アントンのごとき大スキー場はすべてフランス人の占領下にあった。アールベルクはフランスの第一線選手と優れたスキー教師によって独占された。彼らの大部分は兵役を免除されて、レイサーの訓練に当っていた。二シーズンにわたって地元オーストリア人はいやというほど、フランスの技術とその教授法を見せつけられた。これはオーストリア人にとってはフランスの技術を学ぶ稀に見る機会となった。しかもフランス人によって書かれた数多くの著書がさらにこの研究を助けた。1949年まではほとんどすべての大競技はフランス人の手中におさめられていった。

ここでオーストリア人をとらえた問題が二つあった。第一は、はたしてフランス人の宣伝どおりその技術が勝利の原因かどうか。第二に、直ちにクリスチャニアに導入する教授方法の是非がそれであった。彼らは徹底的にこの問題と取り組み、根本から検討しはじめた。結論はしかし再び、シュテムクリスチャニアはスキー教授法の中心に立つというのであった。この結論はオーストリア人を勇気づけた。戦争のブランクはうまった。

彼らの最初の仕事はシュテムシュヴンク(クリスチャニア)を完成することにあった。シュテムシュヴンクはパラレルシュヴンクへ進むさまたげには決してならない。しかし彼らの考え方は戦前のものと全く同じだとはいえない。本教程にも明らかなように、彼らの教授法は大別すると二つからなりたっている。その一つは、前への横すべりであり、もう一つは、シュテムボーゲンとシュテムクリスチャニアである。たしかに、斜滑降から山まわりクリスチャニアはわりにやさしい。しかし、いざ谷まわりになると決して簡単ではない。彼らはここにシュテムを使うのだ。スキーの先を谷へむけてゆくにはシュテムが絶対に楽なのである。斜滑降−横すべり−山まわりクリスチャニアの系列とシュテムボーゲンとを合わせれば、シュテムクリスチャニアができる。そして、このシュテムをなくしてパラレルにしてゆくのである。したがって、かつてのシュテムボーゲンの位置にこの教程ではシュテムクリスチャニアがおかれている。

以上を通じてみると、敗戦によってフランスの横すべりによる指導法をいやというほど見せつけられ、自分たちもそれを試みる機会をあたえられたことが本教程の成立に大きな影響をあたえていることは見のがしてはならない事実である。しかもフランスでもグルノーブル大学のコーチ、ジョルジュ・ジュベールによって外傾技術がとりあげられ、従来のフランスの教義にそむいて「1957年のスキー」が出された。いよいよ同じ技術で競う時代に入ったとみてよい。陸上競技のように、トレイニングの方法のよし悪しが優劣をきめる段階に入ったのである。戦争によって中断されたスキー術の完成期はいよいよきたのである。

もう一つ忘れてはならないのは、戦争中おさえられていたリフトやケーブルカーの著しい進歩と普及である。これらの設備とこれの利用によって生まれたコブだらけのしかも滑りまくられたピステがスキー術に大きな影響をあたえているのである。進歩は四倍になったともいわれている。逆にいえば、いわば自然発生的にピステが現在の技術を生んだともいえるであろう。オーストリアが技術で勝ったとはっきり知ったのは、面白いことにトニイ・シュピースとクリスチャン・プラウダの決定的勝利以来のことである。「ゴムのようなシュピース」の技術は高速度撮影によって徹底的に観察され研究されて、しばらく忘れられていたウェーデルンということばがよびだされた。彼らの競技における成功の鍵はウェーデルンにあることはたしかだが、まず一般は基礎から着実につみかさねてゆくべきである。

本教程は出版されると国際的反響をよんで、アメリカをはじめ幾多の国々で翻訳が企てられ、ドイツはすでにこれにならって指導書をまとめあげ、スイスはかつての「自然なスキー」のように論議を重ねている。フランスはすでにのべた通りである。これらの競争のなかで比較的早くわれわれのものとなしえたのは、第一にルディ・マット氏の好意によるものであり、また「一体どこからこんなに詳しいことを手に入れたのだ。われわれは”今日のスキー”と”自然なスキー”が築いてくれた基礎の上に築きあげたのだから、「お前がこの教程を訳すのは宿命だ…」と快諾をあたえてくれたオットー・ミュラー書店とクルッケンハウザー教授の理解に対しても感謝しなければならない。

「今日のスキー」や「自然なスキー」と同じように、今回も燕温泉の笹川速雄氏と細野の大谷定雄氏のところで訳すことができたのは幸いであった。また中山久先生は、かつて「日本はひねっている」の一文を草して外傾技術をはじめて紹介され、当時すでに今日あることを洞察されたが、この教程の出現は、その体系的原則の把握の正しさを証するに十分である。またスキー仲間の明石和彦、有馬頼興両兄をはじめ、多くの悪友良友が早くしろといっては滑りに出ていったのも忘れられない思い出である。とくに顔、加瀬両君には清書から校正まで世話をかけてしまった。相島さんにはアメリカとの写真のとり合いで気をもませてしまった。あわせ記して心からの謝意をのべた。

ただかえすがえすも残念なのは、今日まで私を導いてくださった池田秀一氏と笹川速雄氏が相ついで他界されたことである。いつまでも私たちの心に生きる両氏に、つつしんでこのささやかな訳書を捧げる。


1957年12月12日
恩師笹川速雄氏の訃報に接した夜
訳者


訳者(福岡孝行)略歴

1913年 東京に生まれる
1941年 東京大学文学部言語学科卒

法政大学助教授
全日本スキー連盟指導員
大町山岳博物館顧問

主要訳著書
「シュプール」(登山とスキー社)
「今日のスキー」(登山とスキー社)
「自然なスキー」(小笠原書房)
「正しいスキー」(湖山社)

映画
「スキーの寵児」製作