2015年3月3日火曜日
「その先がどうなっているか」 [八方尾根]
話:廣田勇介
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白馬村では、山とスキーの関係は切っても切れないものだった。八方尾根の麓、白馬村に初めてスキーが伝わってから、今年で102年目だという。スキーに適した広大な斜面、地形の変化に富んだ3,000m級の山々、豪雪、といった稀有な条件が整ったこの一帯は、アルパイン・クライミングもこなし、なおかつスキーも上手い、というタイプのオールラウンダーを育ててくれる土壌があり、多くの登山家、スキーヤーを魅了する引力を持つ。
八方尾根を安全に登るうえで、注意しなければいけないことがある。それは八方尾根の名の通り、四方八方に支尾根が延びていることである。視界があるときには簡単で快適な尾根歩きを楽しめるが、天候が一転してホワイトアウトになると、主尾根から派生する支尾根へと迷い込んでしまうことが多い。この尾根に建ついくつものケルンには、それぞれに悲しい記憶が刻まれているほど、悪天候時における遭難事故は絶えない。
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最後のまとまった樹林帯である上ノ樺を通り過ぎる際に、二郎さんが
「さっきのライチョウ見た?」
と尋ねてきた。慌ててカメラをもって戻ると、親子連れの真っ白なライチョウ三羽が仲よく尾根を歩いていた。11月の立山で見かけた時はまだ羽根の生え替わりの時期だったが、この辺りのライチョウはもう完全に冬支度を終えている。夢中でライチョウを撮影していると、西から回りこんでくる雲が気になってきた。
「ライチョウは悪天候の予兆である」
という言い伝えが頭をよぎり、先を急ぐことにする。
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さて、今日の目的地はもう少し先だ。唐松沢へ張り出した雪庇に気をつけながら、最後の稜線を登る。黒部側から吹きつける風も、この程度なら気にならない。
やがて山頂に立つと、また新たに見える世界が広がった。多くの登山家が口にするように、
「その先がどうなっているのか、確かめたい」
がために山に登る人は多い。頂だけが目標ではなく、その先に見える景色に夢を見て、憧れ、一歩一歩、体を持ち上げるのだ。
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ソース:岳人 2015年 02月号 [雑誌]
廣田勇介「山頂の先に見える冬山の奥行き」
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