2015年3月18日水曜日
ネイチャースキーのすすめ [橋本晃]
話:橋谷晃
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点々とキツネの足跡が続く雪原に、まるでカヌーを漕ぎ出すかのように、ゆっくりとスキーを滑らせる。この瞬間、とてつもない自由と、自然との一体感が、全身と突き抜ける。
夏と違って、道にとらわれることはない。動きを妨げていた笹藪や潅木は、今はすべて雪の下。森の中を、そこに棲む動物に生まれ変わったかのように、どこへでもスイスイと自由に進んで行ける。道しか歩けなかった夏は、この森の”お客様”だったのが、今ではすっかり風景の一つとして融け込んでいる自分を感じる。
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スキーは私たちに自由をもたらす魔法の道具だ。雪の自然を五感で感じるために、かかとの上がるスキーを使って野山を楽しむ。そんなに技術がなくても、特別な体力がなくても、誰でも楽しめる。スキーを使った雪のハイキング、それがネイチャースキーだ。
職業柄、四季を通して風光明媚なところばかり歩いているのだが、なかでも思わず息をのむような美しさに出会うのは、やはり雪の森がいちばんだと思う。雪の森は、訪れたことがない方が想像しているよりも、たぶん、ずっと明るい。雪の輝きとともに、樹々は葉を落とし、藪は雪の下に隠れるので、とても開放的だ。その中を自由自在に移動できる感覚には、独特の解放感がある。
たとえばペンションや別荘が立ち並ぶすぐ裏の林でも、そこは普段は人が立ち入らない別世界。中へ分入れば、すぐに大自然に包まれた気持ちになる。平らな場所でも、スキーを使うと1歩の距離がスーッと伸びるので、動くことそのものが何とも楽しい。自分が雪上歩行に適した動物に生まれ変わったかのようなその感覚は、初めて自転車に乗れたときのワクワク感に似ているかもしれない。
ネイチャースキーはゲレンデのスキーよりも、ずっと入りやすいと思う。歩くことができるので、まったく平坦な場所から始められる安心感がある。うまく滑ることが目的でなく、自然の風景に会いに行くことが目的なので、ブレッシャーもない。
そして少し慣れてきたら、歩くだけでなく滑ることも大きな喜びになる。丸ごとの自然の中を滑るのは、整地されたゲレンデでは味わえない、無条件の喜びがある。樹々の間を縫うときの踊るような喜びは、整備されたコースと違ってけっして飽きることがない。
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最近は”サイドカントリー”という言葉もある。リフトなどを使って少し高い場所へ行き、ゆっくり滑り降りたり、野山を横切ってハイキングしたり。
ネイチャースキーに使う道具だが、私の場合は滑走面に登り用の刻み(ステップカット)の付いたテレマークスキーを使っている。ゆるい起伏が連続するような野山や森を歩き、滑り、旅を楽しむネイチャースキーには、シール(クライミングスキン)を貼ったり剥がしたりすることなく、いつでも登れて、いつでも滑れる、ステップカットの付いたテレマークスキーが、自由で使いやすい。
活気づく春の森でスキーに乗れば、移動そのものが遊びになる。遊びながら経験や感動を積み重ねるほどに広がる、ネイチャースキーの世界。里はすっかり春めいてきたが、残雪の森はまだしばらく楽しめそうだ。
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ソース:岳人 2015年 04 月号 [雑誌]
橋谷晃「ネイチャースキーで残雪の山を歩く」
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