2015年5月14日木曜日

秋山郷と秋田マタギ [服部文祥]



話:服部文祥




かつて雪国では、カモシカを獲るのに鉄砲を使わなかった。カンジキを履いて、深い雪に追い込めば、棍棒で殴れたからである。昨年、秋山郷の山里をスキーで歩いたときも、出会ったカモシカを戯れに追いかけたら、すぐに追いついた。条件によって人間が四つ足動物より速いことを体験するのはおもしろい。





秋山郷(新潟と長野の県境に位置する山奥の集落群)には、80歳前後の古老が五人おり、その一人に話を聞いたところ

「最近はぜいたくになって、ヒエやアワにおかずもつける。昔はもっとナラとトチを食べたものだ」

と言ったと『秋山記行』にある。越後の文人、鈴木牧之は1828年に秋山郷を六泊七日で旅して同書を記した。秋山郷には江戸時代に秋田の旅マタギが住み着いていたという。秋山郷にのこる狩猟文化は、秋田マタギと土着の狩猟が融合したものだ。


 


秋田マタギは鈴木牧之の求めに応じて宿を訪れた。「齢は三十とも見え、いかにも勇猛なる骨柄に見うけぬ」タフガイは、その生活を語る。

塩とわずかな米、鍋と椀を数個もち、イノシシや熊の毛皮でつくった衣を着て、ほとんど道のない中津川をさかのぼり、魚野川に入る。小屋がけして尺岩魚を釣り、一度に数百 尾を背負って草津の湯治場へ売りにいく。吊り天井方式の罠でケモノを獲り、塩漬けにして肉や皮も売る。山籠りは三十日間。肉と魚を食べ続けるため、山里に下りてくると穀物が食べたい、と笑う。









引用:岳人 2015年 06 月号 [雑誌]
服部文祥「信越国境 秋山郷 フクベの頭1503m」



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