2014年11月19日水曜日

普段着の旅人 [北欧ラップランド]



森山伸也(もりやま・しんや)36歳


19歳で大学受験のため上京したが、都会の暮らしに危うさを覚える。

生活の根を他人に握られ、お金で片をつける生活に。

「実家が代々つづく農家、とうことがあるのかもしれません」



そんな中、登山に出会った。

「”自然のなかで生きている”という感覚が離れてしまっていました。それを取り戻せたのが、山登りでした」



北緯66.6°

北欧はスカンジナビア半島に広がる荒野「ラップランド」への旅がはじまった。

その広がりには、ルートもルールもなかった。







ツンドラの大地には北極海からの寒風が吹き荒み、真夏にすら吹雪くことがあった。

陰鬱な空の下、踏み跡なき荒野を、空腹のままにトボトボ歩く。

沢水を飲み、メシを食い、テントに眠る。

ひたすら、そんなことを繰り返した。



「一歩、荒野に入ると、歩いて食べて眠るだけ。それが日常の生活なんです。むしろ町のほうが非日常に感じられます」

ラップランドには、ジーンズにセーター、長靴といった「普段着の旅人」が多かった。旅は非日常ではなく、日常生活そのものであった。



荒野の真ん中

地図をもたない老人に出会った。

ときは白夜、そこには時計にさえ縛られない自由があった。



生きていくということは、思ったよりもシンプルなものなのかもしれない。

「少しのお金と元気、バックパックに収まるわずかな道具があれば、世界中のどこへ行っても生きていける。そんな実感があります」



北極圏を3度おとずれた後、長野へ移住した。

「もともと山は狩猟や採集、いわば日常生活の場ですよね。そんな日本の山暮らしをもっと学びたいと思ったんです」

裏山を歩き、薪を割る。山の恵みが日常をうるおす。



「旅のように日常をおくる」

そんなことを思いながら。






(了)






出典:山と溪谷 2014年12月号
森山伸也『北緯66.6°』北欧ラップランド歩き旅




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