〜三宅岳評:「くう・ねる・のぐそ」より(抜粋引用)〜
山小屋のトイレ問題は登山者に身近である。かつて小屋閉めの頃には、糞尿を野に還す黄金祭りなども行なわれていたが、最近はどうだろう。人気の山域では従来のボットン式は嫌われ、水洗化が進む。またバイオトイレの導入や、ヘリによる搬出も行なわれている。多大な労力とエネルギーが糞尿処理に使われている現実。
本書『くう・ねる・のぐそ』には、伊沢正名さんが糞土師を名乗るにいたる経緯がまとめられている。きっかけは屎尿処理場「建設反対運動」の矛盾から。自分のウンコに責任をもたず遠くで処理してくれという運動に、伊沢さんはエコではなくエゴを嗅いだ。それが出発点になった。
そして、まずは自分から「自然のサイクルに則したウンコを」という断を下したのだ。その後は実践あるのみ。執念としか言いようのない気力を絞り、野に糞を還しつづけてきた伊沢さん。大都会の片隅で、あるいは国外で、どこか笑いを誘いながらも、本人の涙ぐましい行為は切実以外の何物でもない。40年の野糞歴、13年と45日におよぶ野糞連続記録など、どう逆立ちしても追いつかない記録にはただただ恐れ入る。
「食は権利、ウンコは責任、野糞は命の返し方」
読後、思わずウーンと唸るのは必然だ。
ソース:岳人 2014年 10月号 [雑誌]
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