2014年10月10日金曜日

自然保護と人間排除 [白神山地]




〜浦壮一郎「ユネスコ・エコパークがもたらす未来」より〜


 筆者は1993年12月、白神山地(青森・秋田両県)と屋久島(鹿児島県)が日本で初めて登録された当時から、世界自然遺産が抱える矛盾点に疑問を抱いてきた。

 たとえば世界最大級のブナ林である白神山地は、マタギたちが活躍することで山と森の文化が発展した地だ。山菜やキノコ採り、クマ撃ちなどが森の奥深くまで入り込み、森を守ることで人々の生活が成り立ってきたといえる。しかし、世界自然遺産の登録の後、青森では入山規制、秋田では入山禁止の措置がとられ、そうした森の文化の継承に支障をきたすようになった。

 そもそも白神山地が登録に至ったのは、林道建設の中止が発端だった。広大なブナ林を貫く青秋林道の建設が計画され、それを地元住民などが粘り強く反対運動を続けたことにより計画は白紙撤回。後に世界遺産登録へと登りつめた。ところが、森を守ってきた人たちは締め出されることになる。環境省は同地域を鳥獣保護区に指定し、生活を守るために奔走した人々は「自然保護という大義名分」の下に入山を規制された。そして目屋マタギを含む森の文化は衰退していったのだ。







 一方で、白神山地の登録以前からユネスコには複合遺産という考え方があった。これは人間の文化的営みと自然環境との関わりを重視するもので、日本の自然はその多くが複合遺産に相応しいとの説もある。ところが当時、自然保護といえば「囲いを作って保護するもの」「人間を排除するもの」と思い込む人々が存在し(今も?)、それが正論として一人歩きしてしまった。

「森に足を踏み入れない人が森を、山に登らない人が山を守ろうと思うのか?」

 人間排除の論理は、この根源的疑問が欠落した自然保護論といえるのではないか。気になる点をいくつか挙げるとすれば、世界自然遺産と類似し「核心地域」「緩衝地域」「移行地域」の3つに分類されていることだろうか。核心地域は原則立入り禁止。緩衝地域はAとBに分類され、Aは原則として調査研究とモニタリングのみ可能。Bは地元住民による伝統的な山菜・キノコ類の採取慣行も可能。意地の悪い言い方をすれば、核心地域は人間排除、緩衝地域Aは学者のための森となりかねない。







ソース:岳人 2014年 10月号 [雑誌]




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