2015年12月17日木曜日

歩行、滑走、方向変換 [オーストリアスキー教程1957]



[オーストリア スキー教程 1957]


P. 9〜12


1. 歩行、滑走、方向変換


スキーには自分の力を使って前進する場合と、重力によって滑り降ってゆく場合がある。

スキーをはいて平地を歩くときには、足を雪面からあげないで滑らせながら前におしだしてゆく。腕はふつうに歩くときと同じように脚の動きと反対に動く。杖を持っているために腕の動きは特にゆっくりとなるが、この腕の動きは進んでゆく方向からはずれないよう、正しくおこなわれなければならない。

杖を正しく握ることは、杖を使ううえに大切なことである。杖の頭についている握りの革の輪に下から手を通し、その革が掌のところにくるように握る。革の輪は手首にぴったりくるようにする。握ってみて杖の頭がちょっと上に出るくらいが丁度よい。杖で押して歩行を助けるが、前にだした杖の石突を後にむけて前にだしたスキーの締具の近くにつく。歩くときには、胴体はできるだけゆったりとたもち軽く前に傾ける。

滑走には靴の踵がよくあがる締具が必要である。歩行と滑走のちがうところは、滑走では後脚で蹴り、杖で強く押し、前に出したスキーに乗ったままかなり長く滑る。これが歩行とちがう点である。後脚で蹴り、杖で押す前に、足首、膝、腰をいくらか折りまげて体を沈める。

これらの各関節をさっと伸ばすことによって、体重およびキックの力は前にだした脚に移される。しかし、この前脚(膝)をあまり深く折りまげてはいけない。というよりも、前脚は軽くまげてひきしめたままたもち、運動エネルギーが無駄なく滑走運動に変るようにする。脚を前に押し出すときにはかなり伸ばして、踵に荷重する感じをもつようにするのがよい。

前に滑りつづけているうちに後脚をひきつけ、さらに前にだしてつぎの一歩を踏みだしてゆく。

初めの滑走運動が終らないうちに、つぎのキック、杖の突き放し等をおこなって、なめらかに前に滑ってゆく。スキーは雪から離れないが、強く走るときにはキックするとき、スキーのテールが雪面からすこしあがる。脚で蹴るときは必ず反対側の腕で強く杖を突いて助ける。杖を押すとき、最後に手首をよくきかせる。したがって手はとくに杖を突きはなすときには杖をかたく握りしめないで、手革だけにたよって最後には親指と人差指だけで持つくらいにする。こうして、はじめてうしろに押す腕は完全に伸ばされるのである。杖は突きはなしたら横に振りまわさずに体の近くを通って前にだす。前にだした腕はさらにうしろに押すことができる。突いた杖はずっと押しつづけるが、最後には力を強めて勢よく突きはなす。走って(滑走して)いるときには、体は前にのしかかって前傾する。キックする瞬間には胴体とキックする脚は前に傾いた一直線をなし、腰(の関節)ものびて運動エネルギーが正しく直線的に移動するようにする。

キックした直後、腰(の関節)が曲っていては、この運動エネルギーを完全に使いきることができない。

スキーがあまり滑りすぎると脚の力を使ってキックをきかすことができないので、腕の負担が大きくなり疲れやすい。したがって、場合によっては適当にワックスを使って摩擦を多くすることも必要である。上り気味になるにつれて滑走する歩幅はせばまり、逆に下りになると、踏みだした一歩の滑走距離はかなり長くなる。


両杖推進


これは走っている間にさしはさんで用いたり、平地やいくぶん下り気味のところでスピードを高めるのによく用いられる推進法である。両足をそろえて、両スキーに均等に荷重する。両杖を同時に(石突を後にむけて)突くとき、体をかなりのばしたまま、グーッと前へなげたおし、膝を徐々にまげながら突いた杖で強く押しきる。このとき腰を前におしだしてゆくことも忘れてはならない。杖で押している間を、できるだけ長くする。すなわち、両腕をよくうしろにのばして最後には掌(手)を開き、手革にたよってぐっと押し切るようにする。押し切ると同時に、体は再びのび、腕は新たに体の近くを通って(横に振りだすことなく)前にだされる。杖を押し切るとともに、一方の足を踏みだすこともある。

こうして、杖を押し切るとともに一歩踏みだせば、すぐに実用性の多い「二段滑走」に移ることもできる。すなわち、歩行の要領で一歩踏みだすとともに両腕を前にだして杖をつき強く押し切り、さらに、つぎの一歩を踏みだし滑ってゆく。この二歩ないし二段滑走およびその他の滑走法、すなわち三段滑走、四段滑走等について詳しく述べるのは、長距離走法の専門技術に属するから、ここでは省く。


直登行


傾斜の緩いときには、前に踏みだしたスキーを雪面からあげずに、垂直に重みをかけて踏みつけることによって、このスキーと雪との摩擦を大きくして後すべりを防げる。これだけでは十分でなくなったら、前にだしたスキーをもちあげて(雪面から離して)、必要に応じて強くたたきつけてゆけば摩擦を強め後すべりを防げる。強く叩きつけるとともに反対側の杖で支えて一歩一歩のぼってゆく。しかし、あまり腕を使って疲れるようなときには、コースを斜めに、傾斜をゆるくとって登るか、または別の登行法(開脚登行、階段登行)を用いたほうがよい。


開脚登行


左右のスキーの先を大きく開き(後端は閉じて)エッジを立てる。斜面が急になるにつれて、スキーの先開きを大きくし、エッジングを強めてゆく。内側のエッジを立てるには、膝を内側へおしつけてゆく。足首だけをまげてエッジを立てようとしてはいけない。開脚登行をするときには、杖をよく使って体を支えることが大切であるが、この登行法は短い登行にかぎって用いらるべきである。


階段登行


階段登行は横向きになって登る方法で、スキーは最大傾斜線にたいして横にする。階段登行は、とくに狭いところで、短い、急な斜面を登るのによい。山側(上)の足を足の裏全体で踏みしめられるように、山側(上)のスキーをいくらか前にだしておくことが必要である。

山側のエッジを立ててスキーのズリ落ちを防ぐ。とくに重要なのは、膝を山側におしつけることであるが、これと同時に、谷スキーに体重をよくかけ上体を谷側にねかして調子をとることが大切である。斜面が急になり、雪がかたくなるにつれてエッジングを強めてゆく。

階段登行には杖をよく使わなければならないが、とくに谷側の杖で体をよく支えることが大切である。


斜階段登行


真横に階段登行を続けると疲れが大きいが、斜め前に進みながら階段登行をしてゆくと疲れは少ない。スキーは前と同じように水平にするか、わずかに上にむける。谷側の杖で体をうまく支えると、この斜め前への登行は楽になる。


シールを使って登る方法


長く登り続けるときにはシールを使うのが一番よい。歩き方はふつうの歩行と同じであって、シュプールをうまくつけてゆけば、それだけ無駄な力を使わないですむ。登りのよいシュプールは、変化ある複雑な斜面をいつも同じような傾斜で登っているものである。

大人数の隊を組んで登るときには、先頭の者はしんがりの者が後すべりして困らないように、緩いシュプールをつけてゆくべきである。大勢で踏んでゆくと、最後の者が通るときにはかなりつるつるに踏みかためられてしまうから、先頭の者はこれを計算に入れて、シュプールをつけてゆかねばならない。また多人数のときには、各自がのびのびと歩けるように、前の者のスキーの後端とつぎの者のスキーの先端との間を約スキーの長さくらいあけて、それ以上間隔をつめないようにする。また先頭の者は、後の者が困ることのないよう、あまり幅の狭いシュプールをつけるべきでない。登りのよいシュプールをつけるためには、地形、斜面を正しく判断することが必要であるし、急になったり、ゆるくなったりしないように常に一様の角度(傾斜)をたもって歩く感覚が必要であるから、この判断力と感覚の養成を主な目標とすべきである。


停止中の踏み換え


踏み換えのときは、向きを変えようとする方向にたいして内側のスキーを新方向に踏みだし、外側のスキーを揃えてゆく。踏み換えはスキーの後端を中心にして先を開いておこなってもよいし、またスキーの先端を中心にして後端を開いておこなってもよい。早く方向を変えるため実際には同時に二つを併用することが多い。かなり急な斜面で向きを変えるときにはキックターンを使う。もちろんキックターンは平地でも使える。


キックターン


キックターンを最も確実に、したがって特に初心者に都合よくおこなうには必ず三つの点を支持点として用いることがある。すなわち、常に左右二本のスキーで立って一方の杖を突いているか、または左右両方の杖をつき片足で立っているかするわけである。

スキーを水平にたもち平行に揃えて立って、まわる方向にたいして内側になる杖を内側スキーの後端ちかくに突き、外側の杖は外側のスキーの先端ちかくに突く。こうして二本の杖を実際に支えとして使わなければいけない。つぎに内側のスキーを膝を伸ばして爪先を上にむけて蹴りあげ、このスキーが垂直になり後端が軽く雪にささるようにする。こうして軽く雪に突いておくと、つぎに楽にこのスキーをねかして向きを変えることができる。雪面にねかし、もう一方のスキーと平行にぴったり揃える。ぐちに外側の杖を内側スキーの先端からすこし横に離して突く。さらに外側スキーを、膝をごく軽くまげ爪先を上にあげ気味にして、最初に向きをかえたスキー(内側)に平行に揃える。

斜面でキックターンをおこなうときには、最初と終りにスキーを平行におくことが絶対に必要である。また山側のスキーを蹴りあげて向きをかえたほうが、わずかながらも高さをかせげるからよい。


滑降中の踏み換え


これは滑りながら一歩ずつ横に(先開きにして)踏みだしては揃えて方向を変えてゆく方法である。これは、ゆるい斜面であまりスピードの早くないとき、あるいは斜面から平地に入ってからおこなうのが特によい。ふつうの回転を阻むような雪(例えば、ブレイカブルクラスト、--表面が凍ってカラを張って乗ると落ち込むような雪)のときには、方向変換の最も確実な方法となることがしばしばある。平地を走っているとき、おそい滑降中または斜面から平地に入ったときなどには、外側のスキーで強く蹴って滑降速度を高めることができる。一般に、この踏み換えをおこなうときには、ただ消極的に滑るのではなく、むしろ積極的に勢よく外足で蹴ってゆかなければいけない。

行い方:外側になるスキーに全体重をのせる。蹴る準備をするため、膝をまげ腰を落して低い姿勢になる。とくに足首をよくまげ脛を前におしねかせることが大切である。同時に、内側のスキーを雪面からもちあげ、スキーの先端をあげ気味にしてその先を外にむける。しかし左右二本のスキーの端後がはなれず揃っているようにする。新たにむかう方向にたいして外側のスキーの内エッジで強く押し蹴って、新方向に踏みだした内側のスキーにぐっと膝を前に押しだしながら乗ってゆく。体重のぬけた外スキーを直ちにこのおろしたスキーに体重を移しのせてゆく。外スキーで押し蹴るときに、同時に外側の杖で強く突き押すか、または両方の杖で押してスピードを高めることができる。


スケーティング


滑降速度を高めるこの方法は、主に緩斜面で用いられる。滑降中の踏み換えと同じように、足首を強くまげて一方のスキーに体重をかけ、他方のスキーを雪面からすこしあげて、そのスキーの先を適当に外にむける。つぎに体重をかけたほうのスキーの内エッジで強く蹴り、先を開いたスキーに強く、しかし短い一歩を踏みだして乗りうつる。体重のかけられたスキーで滑っている間、足首をかなり強くまげ、膝と腰を軽くまげている。蹴ったほうのスキーを直ちに雪からもちあげ、滑っているスキーにたいして鋏形にたもつ。滑りがとまらないうちに膝を内側におしつけて滑っているスキーの内側エッジに乗り、これで蹴って新たに前とは逆のほうの斜め前に踏みだしてゆく。シュプールはスケートのように杉あや模様をえがいてゆく。蹴って踏みだすたびに、一方ないしは両方の杖で押してさらに勢をつけてゆく。


最大傾斜線への踏み換え


この斜面に横に(スキーを水平にして)立っていて最大傾斜線にむかってゆく方法は、ふつう「滑りだし」といわれ、初心者もおこなうが、また上達者も背に重い荷を背負った場合におこなうものである。荷のあるとき最も確実におこなうには、山側スキーのテールを開きだす方法がよい。つまり、水平におかれている谷スキーに全体重をかけ、谷側の杖をバッケンの下方約一歩くらいのところにつく。さらに、これとならべて同じ高さのところに肩幅くらいの間をあけて山側の杖をつく。

つぎに山側のスキーを、先端を中心にテールを開きだし、最大傾斜線までむけ、体を二本の杖で支えて谷側スキーを山側スキー(下をむいている)に平行に揃えておく。二本のスキーを完全に最大傾斜線にむけるには、かなり大きく踏みかえなければならない場合もある。杖で押して滑りだす。


跳躍して滑りだす方法(最大傾斜線にむかって)


スキーを水平にして斜面に立った姿勢から、スキーを平行に揃えたまま跳躍して最大傾斜にむかうのも滑り出しの一つの方法である。谷側の杖を谷スキーの締具のうしろに突き、山側の杖を山側スキーの締具の前につき、この杖に乗り切って跳びあがり、スキーを谷へむけてゆく。



→ 直滑降




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