2014年12月12日金曜日
なぜ滑る? [Fall Line]
話:寺倉力
外は静かに小雪が舞っている。山はうっすら見えているが、上部は白い靄に包まれたまま。今日はオープンバーンまで登るより、樹林帯でいい雪を楽しんだ方が賢明そうだ。
そんな朝に思い出すのは一人のスキーヤーの顔。おそらく、彼なら迷いなく上部を目指すことだろう。そして、ホワイトアウトした中でバックルを締め、スキーのテールを雪に刺してフォールラインを向く。いつでもドロップできるその姿勢で、斜面に日が当たるのをひたすら待ち続けるのだ。そのまま2時間以上経過したこともあるという。
「氷像になるかと思った」
と笑うが、日が射すとは限らないのだから、なにも降雪の中を立ったまま待つ必要はない。だが
「日が射した瞬間を逃したくないから」
と彼は言う。冷凍保存されていた良質の粉雪は、日が当たった瞬間から劣化が始まる。滑るなら視界良好を求めたいし、光り輝く最高の状態で新雪を滑るには、そのタイミングしかないと彼は言う。
ご承知の通り、ハイシーズンの新雪は多少日が当たったところでさほどクオリティは変わらないし、太陽が出なくても光があれば滑るに支障ない。常人には理解し難い彼のこだわりは、けれども、滑り手の限りない欲求そのものにも思える。求める程度の違いこそあっても、1本のランにも最高の快楽を追い求める心は、滑り手の本質だ。
「なぜ、そこまでして滑りたいのですか?」
と問われても答える術がないだろう。
それは彼も私たちも同じだ。
ソース:Fall Line 2015(2)
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